富山県富山市の南に位置し、『おわら風の盆』のお祭りでも有名な八尾。このまちで室町時代から続く伝統工芸、八尾和紙。
八尾和紙は、かつて薬の包み紙や、それらを入れる袋紙の素材として作られていたそうです。現在は“型染め”という独自の製法で生み出される彩り豊かな模様の和紙は、名刺入れやブックカバーなどに形を変え、多くの人の生活に寄り添い愛されています。
そんな八尾和紙を唯一製造している桂樹舎(けいじゅしゃ)代表の吉田泰樹さんにお話しを伺いました。

丁寧な手仕事の歴史を絶やさない。

桂樹舎は1960年に泰樹さんの父、吉田桂介(よしだけいすけ)さんが創業しました。日本の近代化が進み、機械による紙の大量生産がはじまった昭和時代に、手漉き和紙の生産は衰退していきました。
そんな中、吉田桂介さんは民藝運動の父と呼ばれる柳宗悦(やなぎむねよし)や“型絵染”の人間国宝である芹沢銈介(せりざわけいすけ)との交流を通して、失われていく伝統美を再発見し、八尾の型染め和紙を生み出したのです。

そんな熱い気持ちを抱き、八尾和紙の伝統を守り抜いてきた父の姿を見て育った吉田泰樹さん。
「父はよく夜なべをして作業をしていました。父とはあまり会話を交わすことはなかったのですが、八尾和紙への想いは知らず知らずにその背中から教えられてきたのだと思います。父の真似はしたくないけれども、尊敬していましたね。」と懐かしむように話す泰樹さん。
父の想いを受け継ぎ、泰樹さんならではのエッセンスも交えて桂樹舎から全国のみなさんへ八尾和紙を届けています。

無くても困らない和紙は、日常に取り入れることで豊かさが増す。

以前は障子戸など、家庭でもさまざまなアイテムに和紙が施されていました。現代では、障子戸も破れないプラスチック製のものも誕生し、和紙の需要は少なくなっています。
「言ってしまえば、日常生活の中に和紙は“無くてもいいもの”なのです。無くても困らないからこそ、あると豊かに感じられる。そんな時代の中で、どうやってみなさんに和紙を手に取ってもらい、楽しんでもらえるのかを日々考えています。」

桂樹舎では、すべての工程を手作業で作り上げた和紙を、現代の暮らしにも寄り添う商品として世に送り出しています。耐久性にも優れており、富山県内で桂樹舎の名刺入れを愛用する若い世代も多く見受けられます。
「父の考案したデザインは、今でも定番商品として名刺入れでもよく使い続けています。父の代では民藝店での販売を主に行っていましたが、私の代からはもっと広くみなさんに知ってもらいたいと考えて販路を広げる努力をコツコツと行ってきました。日本最大級の見本市にも20年程出店し続けており、国内外のバイヤーさんとの交流も深めてきました。」
泰樹さんの積み重ねてきた交流がどんどん実を結び、現在は有名アパレルブランドなどでも取り扱われる人気商品となっています。

とがった商品を共創していきたい。

今回、桂樹舎とカモシカnetがコラボレーションをしてお届けするのは、名刺入れとうちわです。富山の季節をイメージしたデザインを和紙に落とし込んでいます。
「一緒に新しく商品を作っていくなら、とがったものを作っていきたいと考えています。自由な発想を形にしていきたいですね。これが和紙で実現できるの?!といった新たな発見をみなさんにお届けしていけると嬉しいです。1400年続く和紙の歴史を絶やさないためにも、広く和紙の魅力を知って頂けるような仕事を続けていきます。」
桂樹舎が生み出す八尾和紙のこれからの挑戦にも注目です!

「この先も老若男女に使ってもらえるような“間違いなく愛されるもの”を作り、みなさんに和紙を使う喜びを感じてもらいたいです。」と目尻を下げ、穏やかに語ってくれた泰樹さん。

身の回りに丁寧な手仕事の物語が詰まったひと品を加え、少し豊かな日常を過ごしてみませんか?みなさんもぜひ、桂樹舎さんの八尾和紙を手に取ってみてください。