石川県南部で江戸時代から続く伝統工芸、九谷焼。職人の手で丁寧に作り出される九谷焼の作品には、食器も多く見受けられます。
「食器は、暮らしの中で日々手にするもの。普段の食事や家族の団らん、おもてなしのシーンなど、さまざまな場面に選んでいただけるような食器を作っていきたいです。」と話すのは、女性九谷焼陶工 德永遊心さんです。生み出す作品はシンプルであたたかく、現代の食卓に馴染むものばかりで人気を集めています。

憧れだった、伝統工芸の作り手。

学生時代まで北海道で生まれ育った徳永遊心さんは、日本の伝統工芸やものづくりに携わってみたいという憧れを抱いていました。
「日本の伝統工芸は美しく魅力的なものばかりですが、産業として徐々に衰退して次の担い手がいないという継承問題があちこちで起こっていると聞いていました。だったら私が担い手になりたい!と思っていました。」
ものづくりに憧れつつも何から始めればよいのかわからず、デパートなどで行われている伝統工芸品の展示会へ足を運んでは、弟子入り先を探したという德永遊心さん。時には京都の窯元を20か所ほど回ったこともあったそうです。
「私が弟子入りをしたい!と伝えると、ほとんどの人から苦い回答が返ってきました。この業界で食べていくのは厳しいだとか、女性には難しいかもしれないだとか。そんな中で出会った九谷青窯の代表 秦 耀一(はた よういち)は、これから始めようとする若い人間にポジティブなメッセージしか言わない人だったのです。この人のもとで学びたいと弟子入りを決意し、石川県に移住して九谷青窯に入りました。」

九谷青窯は、1971年に石川県能美市に創業。若手の作家が集う窯元であり、独立していく作家も多いのだとか。
「一般的に九谷焼の制作工程は、素地づくりや絵付けなど、細かい作業がすべて分業されています。そのため、弟子入りをするとしばらくの間は師匠のお手伝いをすることが多いです。一方、九谷青窯では陶工一人がすべての工程を担い、最初から“自分の作品づくり”ができる窯元なのです。師匠やバイヤーさんからデザインなどのアドバイスをいただきながら、“自分の作品”として成長していくことができます。こういった要素もあって、すぐに独立していく作家もいますが、私は居心地が良くて長居をしちゃいましたね!」と笑顔で九谷青窯で過ごした時間を振り返る様子から、とてもいい環境だったのだと伺えました。

そんな德永遊心さんは九谷青窯で17年を過ごし、2019年に金沢市郊外で独立。現在は德永遊心窯を構え、コツコツと丁寧に作品を生み出しています。

植物をモチーフにした、やわらかな作品。

德永遊心さんの作風といえば、植物などのやさしいモチーフの絵柄が多い印象です。
また、徳永さんが長く作っている色絵花繋ぎのモチーフは、ポーランドの民俗意匠などの伝統的な模様のエッセンスも含んでいるという。
「伝統的な民俗意匠は、長い間人の目に触れ、人々の美意識に耐えてきたものだと思います。まさに洗練されたデザインなので、参考にしていますね。」と穏やかに語る德永遊心さん。歴史や文化を大切に思うあたたかさを感じます。

いつもの食卓で、長く愛してもらいたい。

カモシカnetで販売する器の中でも、『お食い初めセット』は德永遊心さんが今回初めて作った作品なのだとか。
「お食い初めは、ひとつひとつの器に意味があり、日本の文化を感じられる素晴らしい儀式です。今回作ったものは、お食い初めを終えても日常的に長く愛用していただけるような器を考え、揃えてみました。ぜひ、お子さんに本物の食器に触れ合う知育の時間としても愛してもらえれば嬉しいです。」

また、德永さんはInstagramを通して実際に食器を使ってくれている人たちを見て励まされているそうです。
「写真を全部プリントアウトしたいくらい嬉しいですね。みなさん彩り豊かにお料理を盛り付けていて、食事を楽しんでいる様子が伝わります。得意料理を盛るならこのお皿かな、と食器を選ぶ時間も楽しんでもらえるといいですね。」



最後に「作品を待ってくれている人の手元に届ける為に、長く元気にコツコツと続けていきたいです。」と言葉を紡いでくれた德永遊心さん。

いつもの食事に、彩りを。德永遊心さんのあたたかさが形となった器たちを、ぜひ手に取ってみてください。